経営理念型企業の定義と特徴
「経営理念型企業」とは、経営理念を企業活動の中心に据え、その理念を効果的に活用して経営を行う企業のことです。特に、ジム・コリンズの著書『ビジョナリーカンパニー』に示されたような、時代を超えて成功し続ける企業を指す概念としても用いられます。
この概念は、1980年代に米国企業の競争力低下を背景に、日本の理念型経営や『ビジョナリーカンパニー』の研究が注目された中で関心が高まりました。
経営理念型企業の特徴は以下の通りです。
- 経営理念の体系的な活用
- 経営理念における上位概念(基本理念や存在意義など)と下位概念(行動指針や経営方針など)の階層性を確立しています。これにより、抽象的な理念が具体的な行動に結びつきやすくなります。
- 上位概念は恒久的である一方で、下位概念は変化する経営環境に適応するために柔軟に設計されます。この階層性を維持することで、理念が形骸化する構造的問題を克服しています。
- 「ANDの才能」の追求
- 経営理念型企業は、基本理念(理想)の維持と、進歩(成長・利益)の促進という、一見対立する二つの概念を同時に追求します。これは、事業の継続性を真に追求するためには、理念と利益の両方が必要であるという考え方です。
- 企業文化形成への注力
- 経営理念に基づいた行動を組織内で奨励し、理念の浸透を通じて企業文化を形成することを重視します。理念が社員に深く浸透することで、組織の一貫した行動が習慣化され、「カルトのような文化」(独自の強い企業文化)が形成されるとされています。
- 理念が浸透し文化として定着することにより、社員の士気が高まり、組織への帰属意識が強化されます。
- 理念の形式化と公表性
- 理念は、読み手に対して働きかけの効果を持つため、分かりやすい表現で成文化され、社会に対して公表されることが極めて重要です。この公表性が、理念が経営者の独善的な考えではなく、社会的な受容と支持を集める内容であることを保証する役割も果たします。
パーパス経営との共通点と相違点
経営理念型企業と近年注目される「パーパス経営」には、共通点と相違点があります。
共通点:
- どちらも恒久的な理念を企業活動の中心に据え、その理念に基づいて経営活動を行います。
- 「ANDの才能」に代表されるように、経済的側面(利益、成長)と高次の理念や社会的価値を同時に追求する特性を持ちます。
- 理念の成文化と公表性、そして理念の浸透による企業文化の形成を重視します。
- 理念は階層構造を持つと考えられています。
相違点:
- 目的の焦点:
- 経営理念型企業は、企業の価値観や社会的責任を明確にし、事業の成長と継続性を追求します。社会的課題解決を必ずしも主要な目的とはしません。
- パーパス経営は、「地球上の人類が抱える課題に対し、利益を生み出せる解決策を提示すること」を核心的な目的とし、社会的な課題解決や社会的な価値創造に焦点を当てます。
- 影響範囲(領域性):
- パーパス経営は、社会や地球環境のサスティナビリティへの貢献を示すことを意図しており、より広範なステークホルダー(顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティなど)に影響を与えるため、理念の影響範囲である「領域性が広い」可能性があります。
- 調査結果でも、パーパスを標榜する企業の方が経営理念を標榜する企業よりも、領域性に優れている企業の比率が高いことが示されています。
- 実践における積極性:調査結果では、パーパスを標榜する企業は、経営理念を標榜する企業と比較して、理念の標榜に関する積極性が高いことが明らかになっています。
- 優位性:調査結果から、パーパス経営は、経営理念型企業よりも、階層性に優れている企業の比率が高く、理念に基づく経営の業績においても良好な成果を上げていることが示唆されています。
経営理念型企業は、自社の事業活動や内部統制の「羅針盤」を自社内で確立し、組織全体でその針路(経営理念)を共有・実践することで、安定した航海(事業活動)を続け、特定の港(事業目標)への到達を目指す船団のようなものです。この船団は、荒波(環境変化)にもしなやかに対応できるよう、羅針盤の精度を高め、乗組員(社員)全員が羅針盤を信じ、自律的に行動する文化を築いています。