「企業文化」とは、組織の構成員が共有しているすべての潜在的な意思決定基準と定義されます。これは、単なる目に見える行動や表層的な価値観だけでなく、組織の「背後に潜む基本的仮定」にその本質があるとされています。
企業文化に関する主な点は以下の通りです。
- 定義の多様性
- 企業文化には研究者によって様々な定義が存在しており、一様には定まっていません。
- しかし、エドガー・シャイン(2016)は、企業文化を**「構成員が共有しているすべての潜在意思決定基準」**と定義し、これが多くの研究で参照されています。
- 企業文化の3つのレベル
- シャイン(2016)は、企業文化を以下の3つのレベルで捉えています。
- 文物(Artifacts): 目に見える組織構造や手順など、表層的な要素。
- 標榜されている価値観(Espoused Values): 企業の戦略、目標、哲学など、公に表明されている価値観。
- 背後に潜む基本的仮定(Underlying Basic Assumptions): 無意識に当たり前とされている信念、認識、思考、感情など、文化の真の源泉となる部分。この「背後に潜む基本的仮定」こそが、企業文化の本質であるとされています。
- シャイン(2016)は、企業文化を以下の3つのレベルで捉えています。
- 企業文化の形成プロセス
- 企業文化は、経営理念の浸透を通じて形成されます。
- シャイン(2016)は、創業期の企業文化成立の3つのプロセスを示しています。
- STEP 1: 創業者が頭の中にある価値観を示す(理念の公表・標榜)。
- STEP 2: 従業員(個人・集団)がそのやり方の正しさを確信し、繰り返し行動する(理念浸透と行動の循環)。
- STEP 3: 集団で学習した内容が価値観や信念となり、無意識に行うようになる(基本的仮定=文化の成立)。
- このプロセスにおいて、理念の「成文化」と「公表性」が重要であり、これにより読み手に対して働きかけの効果を持ちます。
- 経営理念型企業(ビジョナリーカンパニー)では、基本理念に従った行動を社員に奨励するために、理念の浸透による文化形成を重視し、独自の強い企業文化を形成するとされています。
- 「強い文化」の概念とその限界
- ピーターズとウォーターマン(1982)は、少数の核となる価値観が経営者主導で企業内に浸透し、企業文化として定着することで高い業績を上げるという**「強い文化」**の考え方を提唱しました。
- しかし、この「強い文化」の考え方には、理念が行動レベルに解釈されるプロセスが不明確である点や、経営層のリーダーシップに偏重し、ミドルマネージャーの役割や組織成員の直接的な経験・相互作用への考慮が不足しているという批判があります。
- つまり、「強い文化」の考えはマクロなアプローチに偏重しており、ミクロな視点での理念浸透プロセスへの詳細な考慮が不足しているとされています。
- 企業文化の重要性
- 経営理念型企業やパーパス経営では、理念の浸透を通じて企業文化を築くことが重視されており、これが社員の士気を高め、組織への帰属意識を強化します。
- 理念が浸透し、企業文化として定着することで、組織の一貫した行動が習慣化され、事業活動にポジティブな影響をもたらします。
企業文化は、まるで「羅針盤を共有する船の航海士たち」に例えることができます。船長(経営者)が定めた羅針盤(経営理念)の指し示す方向を、航海士たち(社員)が深く理解し(認知的理解)、心から納得し(情緒的共感)、それに基づいて自律的に行動する(行動的関与)ことで、船全体が同じ目的地に向かって力強く進むことができます。羅針盤が曖昧だったり、航海士たちがそれを信じなかったりすれば、船は迷走し、目的地にたどり着くことはできません。真の企業文化は、この羅針盤が航海士たちの血肉となり、無意識のうちに航路を決定する「当たり前」となることで、初めて形成されるのです。