研究の目的
本研究は、以下の3つの目的を掲げています。
- 経営理念を重視する「経営理念型企業」の有効性を明らかにすること。
- 経営理念型企業と近年注目される「パーパス経営」の違いを明らかにすること。
- 理念の標榜(掲げること)や浸透がもたらす効果との関係性を明らかにすること。
研究方法
研究は、マクロ(組織全体)とミクロ(個人・集団)の両視点からアプローチを行いました。
- マクロ分析: プライム市場上場企業のウェブサイト(HP)を調査し、理念の形式化の傾向や業績との関係性を分析しました。
- ミクロ分析: Webアンケート調査を実施し、理念が従業員個人にどのように浸透しているか(認知的理解、情緒的共感、行動的関与)を測定しました。
分析結果の概要
- 理念の標榜状況: 調査対象企業の58.6%が理念に関連する活動を行っていましたが、残りの41.4%では理念が形骸化、または標榜されていませんでした。
- パーパス経営の優位性: パーパスを標榜する企業は、そうでない企業に比べて理念を重視する傾向が強く(25.4%高い)、業績も優れている(1.16倍)ことが示されました。また、理念の「階層性(理念の構造)」と「領域性(影響範囲)」の観点でも良い傾向が見られました。
- 理念浸透の効果: 経営理念を重視する企業では、従業員の理念に対する理解・共感・行動の全ての指標が高く、理念が浸透していることが確認されました。これは、理念を重視する経営が企業文化の形成に良い影響を与えることを示唆しています。
考察
分析結果から、以下の点が考察されました。
- パーパス経営の有効性: パーパス経営は、社会的課題の解決を目的とすることで理念の「領域性」が広がり、経営理念型企業と比較して階層性、領域性、業績の観で優位性を持つことが明らかになりました。
- 理念浸透プロセスの重要性: 企業文化を形成するためには、マクロ的な視点だけでなく、ミクロレベルで従業員一人ひとりに理念を浸透させるプロセスが重要であることが示されました。
- 「真の経営理念型企業」の存在: アサヒグループホールディングスを事例に、従来の経営理念型企業の中にも、パーパス経営と同様に優れた領域性を持つ「真の経営理念型企業」が存在する可能性が示唆されました。
研究の成果と今後の課題
本研究の主な成果は以下の3点です。
- 理念を明確に定義し公表すること(形式化)が業績へ与える影響を明らかにした。
- 個人へのアプローチ(ミクロ)の重要性を示した。
- パーパス経営と経営理念型企業が持つ仕組みの優位性を示した。
今後の課題として、理念浸透の成果に関する多角的な分析や、理念浸透プロセスのさらなる解明などが挙げています。
本研究から得られた示唆
この研究から得られた主な示唆は以下の通りです。
①企業理念を明確に定義し、社内外に積極的に示すこと(形式化・標榜)は、良好な業績につながる傾向があります 。特に、社会的課題の解決を企業の存在意義とする「パーパス経営」は、従来の経営理念型企業よりも業績や理念の構造(階層性・領域性)において優位性が見られます 。
②また、優れた企業文化を形成するためには、組織全体への働きかけだけでなく、従業員一人ひとりへの理念の浸透(認知的理解、情緒的共感、行動的関与)が不可欠です 。理念を重視する経営を行うことで、従業員の自律的な行動が促され、事業活動に良い影響を与えることが示唆されました 。